地方都市において、地域の店を活気づけることは重要な課題である。様々な試みがされるなか、岡山県総社市が取り組んでいるのは「パン」での町おこし。地方都市の特徴であるクルマ社会や、シニア層とも相性がいいという。その取り組みを見に行った。
■「パンわーるど総社」で地域ブランドづくり
岡山空港から倉敷に向かってクルマで20分ほどの場所に総社市はある。現在の人口は7万人ほど。観光都市倉敷の隣町で県庁所在地の岡山市にも近く、交通の便が良い。そのわりには土地や住宅などのコストが安く、近年は人口も増えている。気候温暖で川や平野もある。中国地方の交通の要所に位置することもあって、これまで自動車関連部品工場や食品工場など、大手企業の工場がいくつも進出していた。
暮らしやすく生活コストも安いということで、町の人気はあるものの、駅前商店街はさびれる一方だ。住民が誇りにするような地域のブランドも乏しい。
現在、このまちが地域ブランドづくりを目指して取り組んでいるのが「パンわーるど総社」というプロジェクトだ。市内に十数軒あるパン屋を核にパンのまちとして総社市をブランディングしようというものだ。
活動が始まったのは2016年8月。総社商工会議所が中心になって地元で伝統的に取れる「赤米」という古代米とブドウやモモなどの地元産のフルーツを使って店舗を横断したパンづくりを企画した。同年11月には12社がこのフルーツパンを作ってイベントを開催した。こうしたイベントを一過性で終わらせるのではなく、17年3月には第2弾としてイチゴを使った企画パン作りを実施、7月にはアイスクリームと組み合わせたアイスパンを企画、9月にはまたフルーツパンイベントを開催と立て続けにパンのまちのブランドづくりイベントを実施した。
地域おこしとしての成果も徐々に出始めている。17年9月末時点で参加している各事業者の売り上げは平均で約40%増え、市外からも含めた新規の誘客も30%ほど増えた。
総社市が地域おこしの核としてパンを選んだ理由はいくつかある。市内に山崎製パンの岡山工場があり、近隣からはパン作りの町として知られていた。また市内に創業90年になる老舗のパン屋がある、Iターンでパン屋を始めた事業者がいたなどの条件があった。これらを地域資源として活用し、地域ブランドをつくることを総社商工会議所が発案、16年に補助金を得てプロジェクトをスタートさせた。
■パン屋はすみ分けられる
人口7万人ほどの町にパン屋が多数あって、ビジネスとしてやっていけるのだろうか。いくら行政や経済団体が旗を振っても個々の事業者が持続していかなければ地域おこしとしては意味がない。
総社市の代表的なパン屋をいくつか訪ねてみた。
ベーカリートングウは2017年で創業約90年を迎える総社市のパン屋ではもっとも古い歴史を持つ老舗だ。昔ながらの揚げあんぱんは地元では「油パン」と呼ばれ、総社のソウルフードの一つになっているという。また学校給食などを長年にわたって請け負っているため、地域住民はその味や品ぞろえに愛着を持っている。
パンライフは天然酵母を使ったパンやレンコンやゴボウなどの野菜をふんだんに使った自然派の品ぞろえを特徴としている。
またオシャレな外観にカフェを併設したナンバベーカリーは、遠方からのクルマの客に加えて最近総社市を訪れることが増えた自転車ツーリストのオアシスにもなっている。
■地域活性化のツールとしてパン屋はスジが良い
このようにひとくちにパン屋といっても顧客ターゲットや満たしているニーズは多岐にわたっている。総社市ほど大々的ではないが、パン屋が地域おこしの核の役割を果たす例は全国各地にある。地方はクルマ社会であり買い物のために30k~40kmも移動することは珍しくない。たとえまち外れでもおいしいパン屋だと評判になれば、広い商圏からその店舗を目指した客が訪れる。雑貨や衣料と違い、日常の食事につかうものであるため、ファンがリピーターとなれば来店頻度が高いのもパン屋の特徴だ。
実際に平日の昼間に複数のパン屋を訪れてみて、目についたのは高齢者の来店比率の高さだ。パン食と言えば、女性や子供に人気があるのではと想像されるが、実は団塊世代を代表する60~70代のシニアもパン食には違和感がない。戦後学校給食制度が広く全国に普及しはじめたのは団塊世代がちょうど小学校の高学年に差しかかかったあたりだった(学校給食法の施行は1954年)。
またシニアは調理や食器洗いが手軽にすむパン食を好む傾向もある。今後の高齢化時代にも実はパン食は成長余地があるジャンルだといえそうだ。
総社市のパンでまちおこし&地域ブランディング「総社パンわーるど」の事業はまだ始まったばかりだ。総社商工会議所では、これまで実施した春秋のフルーツパンのイベントや夏のアイスパンなどの活動を継続したうえで、さらに地元に工場があるカルピスなどの大規模な事業者とのコラボを進めるなどして事業を拡大する意向だ。
今後はサイクルツーリズムなどの観光事業との連携も強めた企画や情報発信に注力していきたいという。
【引用元】
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO24272270V01C17A2000000